nishiikatsumi’s diary

Long Live Reading Books

『羊と鋼の森』を読んで

 今回、紹介するのは、初?の小説、宮下奈都さんが書いた『羊と鋼の森』である。本屋さん大賞にも選出されたそうなので、読まれた方あるいは記憶に残っている方も多いと思います。

羊と鋼の森

羊と鋼の森

 

  この物語は外村という青年が一人の調律師と出会い、調律師の作業を見学するところからスタートする。この一連の作業を見学したことがきっかけとなり、外村は調律師を目指して勉強する。調律師の教育を修了した後、初めて出会った調律師、板鳥と同じ会社に入社する。

 そして、最初は見習いから始まって、調律を依頼してくる人々と先輩社員たちとの付き合いを通して、調律師として成長していく。

 その過程では、必ずしも調律師として成功するわけではなく、失敗したりして顧客を失うことも経験する。

 洗練された調律師の板鳥と比較して、技量的に未熟さを感じながらも、外村は必死に調律を極めて行こうとする。

 

 この本を読んで驚かされたのは、ピアノの調律という世界を、音無しで表現しようと試みていること。音がなくても、なんとなく伝わって来る。著者の表現力の高さを感じてしまう。

 難しい表現を巧みに描いているのを読みながら、小説の世界の奥深さを感じることになった。

 登場人物も魅力的な人間が多く、先輩の秋野、柳が、主人公の成長に力を貸していく過程は微笑ましく読むことができる。

 そして、この小説を読む限り、著者は非常に念入りにピアノの調律の世界を取材していることがうかがえる。小説には取り込めていないが、数多くのエピソードを聞き込んで、そのエッセンスを本編に生かしているように感じる。

 その意味では、賞を取るのも当然だなと感じた。

 読み始めてから、ぐいぐい宮下ワールドに引き込まれ、読み進むことになった。激動を味わうことはなかったが、落ち着いて楽しみながら読むことができた。

 かつて、ある作家さんの本を読んだ時、結末に納得できず、2週間ほど、悶々とした時期があり、それ以降小説を読むのを控えるようになってしまったことがあった。

 この本は展開が非常に早く、しかも楽しみながら読めるのでおすすめである。

 

 今後も、少し小説を読んでみようかな?最近、ビジネス本ばかり読んで偏食気味なのでと思わせる一冊でした。楽しかったです。

 

 著者の宮下奈都さん、株式会社文藝春秋の皆様、洗練された楽しい小説を出版していただきありがとうございました。