『いつも「時間がない」あなたに』を読んで
ハーバード大学経済学教授のセンディルさんとプリンストン大学ウィリアム・スチュワート・トッド心理学教授のエルダーさんによって書かれた本です。
タイトルは『いつも「時間がない」あなた』ですが、ポイントは欠乏感を感じた時の人々の行動経済学を記述したものです。
最初は時間管理術を諭してくれる本かなと思っていましたが、そうではなかった。
いい意味で裏切ってくれたと思います。
- 作者: センディル・ムッライナタン,エルダー・シャフィール,大田直子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2015/02/20
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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この本は、ズバリ、欠乏感を感じている方に読んでほしいと思います。
理由は、その欠乏感によって、あなたの人生に何が起こっているのかを教えてくれるからです。
この本は、最初に第二次対戦時に問題となった飢餓状態になった人々をどう救うかのために行われた、飢餓状態の再現実験に触れることから始まります。
そこで得た事実は、人々が飢餓状態に陥ると、食料のことばかりが心に深く刻みこれれて、他の案件が除去されてしまうということでした。
著者たちは、これを知り、欠乏感により欠乏対象が心に深く刻み込まれてしまい、他のことを考えられなくすると語ります。
ここから、数多くの事例が語られます。
著者は、この他の案件が考えられなくなる状態を「トンネリング」と言います。
この本では、まず、個人がトンネリングを起こした時の事例を数多く説明してくれています。
締め切りなどのような短期的に、欠乏感を与えることは必ずしも悪いことではなく、業務の生産性を向上させる因子になり得るのです。
しかし、このトンネリングが長期間、生じた場合、心の中に集中している案件のみしか考えられなくなり、他の案件を考慮できなくなる問題が生じると、この本では指摘しています。
そして、それが何を引き起こすのか?
それは、将来の行動を抑制することになると、つまり将来の計画を考えようとしない、行き当たりバッタりの行動をするようになるということです。
前半は、個人レベルのテーマで語られます。後半は、組織として、システムとして欠乏感を持った場合、どう悪影響を及ぼすのかが語られています。
その組織としての具体的な例として、急患のみ対応するために、日常の医療業務では使用しない手術室を確保することで、手術に関するトラブルを激減させたセント・ジョンズ病院の例が出てきます。
スケジュールをギュウギュウに詰め込みすぎると、どうなるのかを教えてくれる非常に良い例だったと思います。
余裕を持たせることが、結果的に生産性を上げたという話を聞いて、驚かされました。
この本を買った時に時間管理術の本でなかったのは、がっくりきましたが、でも、欠乏感をいかに対処して良いかについての説明もあり、今後のライフスタイルを確立していく上で非常に参考になる内容でした。
考えることが、思考の体力を消耗していくという事実を改めて、学びました。行動をうまく考えて、対応していきたいと思います。
特に重要な案件は先に片付けておき、それからそうでない案件の処理を徹底させていこうと思いました。
この本は読むのに非常に苦労した本でした。多数の例がどうつながっていくのか明確にイメージしにくかった。これのおかげでブログ更新が滞っていました。
今後は、もう少し更新頻度を上げていきたいと思います。
著者のセンディル・ムッライナタンさん、エルダー・シャフィールさん、翻訳者の大田直子さん、装幀担当の渡邊民人さん、印刷担当の精文堂印刷株式会社の皆様、製本担当の大口製本印刷株式会社の皆様、株式会社 早川書房の皆様、欠乏感によって何がゆがめられるのか教えてくれる本を出版していただき、ありがとうございました。